少し古い話になりますが、「かもめ食堂」という映画が
ありました。結構評判になったのでご覧になった方も
いらっしゃるかと思います。私はワウワウで放映したのを
ビデオに撮って2年くらい前に観ました。
主演の3女優がかもし出すちょっと風変わりな雰囲気と、
おいしそうな料理の場面が沢山あるのが好きでした。
そのビデオを久しぶりに観返したくなったのは、やはり
自分が飲食店を開くことになったからでしょうか。
映画の舞台になっているのは、日本から最も近い
ヨーロッパの国、フィンランド。その首都ヘルシンキは、
いかにも北欧らしい情緒豊かな港町。客船が行き交い、
のんびりとかもめが群れ飛ぶ海岸と、美しく洒落た風情の
街並みに心惹かれます。
その街角にある日ひっそりとオープンした小さな食堂。
店主は小林聡美扮するサチエという小柄な日本女性。
開店から1ヶ月たっても一人もお客さんが来ず、所在無げに
グラスを磨いている彼女を店の外から覗いて、「こどもかしら」
「『かもめ食堂』じゃなく『こども食堂』ね」と囁きあう住人たち。
そんな場面から始まります。
しばらくしてやっと一人やってきた客は、トンミという日本
かぶれの青年。サチエは、「記念すべき最初のお客さま」
ということで、彼のコーヒー代を永久に無料にします。いいね、
こういうの。
彼に「ガッチャマン」の主題歌の歌詞を教えてくれと
頼まれ、出だししか思い出せなかったサチエは、その日
一日何とか思い出そうと四苦八苦。立ち寄った書店で
「ムーミン」の本を読んでいるミドリ(片桐ハイリ)を見かけ、
思い切って声をかけます。ミドリは完璧に歌詞を知っていて、
それを歌いながらノートに書き付けてサチエに渡します。
その書店は図書館みたいに広くて、座って本が読める
テーブルと椅子がゆったりと置いてあるのです。いいね、
こういうの。
これがきっかけとなって、ミドリはサチエの家に泊りながら、
店を手伝うようになります。彼女はサチエに「どうして見も知らぬ
私を家に呼んで泊めてくれたんですか?」と尋ねます。
「ガッチャマンの歌詞を全部覚えている人に悪い人はいません
からね。・・・多分」と答えるサチエ。いいね、こういうの。
トンミ以外の客がちっとも来ないのに業を煮やしたミドリは、
「旅のガイドブックに店を紹介してもらったらどうか」とサチエに
勧めます。しかしサチエは、「それはあの店の匂いと違う気がする」
と言って首を振ります。「私が店を開いたのは、観光客や物珍しさに
引かれて来る客ではなく、この街の人に素朴な日本食を食べて
もらいたいから」だと。因みにこの店のメインメニューは、鮭、梅、
おかかのおにぎりなのです。
「大丈夫。まじめにやっていればきっとお客さんは来る。
ダメだったら・・・やめちゃいます。」「えっ?!」と驚くミドリに
「でも大丈夫。・・・多分」と笑って言うサチエ。いいね、こういうの。
その場面でサチエは、「もし明日地球が滅びるとしたら、最後に
何をしたい?」とミドリに問いかけます。「おいしいものを食べたい!」
と答えるミドリ。「そうでしょう?最後の晩にはおいしい料理を沢山
作って、好きな人だけ呼んで、のんびりとおいしいお酒と料理を
楽しむの」とサチエ。「それには私も呼んでもらえるんですか?」と
不安そうに尋ねるミドリ。「はい、ガッチャマンの歌詞を全部覚えて
いる人に悪い人はいませんからね。」とサチエ。いいね、こういうの。
そしてある日、サチエはふと思いついて、相変わらず客のいない
店でシナモンロールを焼きます。この場面、本当においしそうです。
焼き立てを二人で頬張るところでは、よだれが出そうになりました。
焼きたてのパンの匂いに誘われるように、今まで店の外で
覗くだけだった住人が入って来ます。そしてコーヒーとともに、
大鉢に盛られたシナモンロールを「おいしい!」と満足げに
たいらげます。おゝ、きっとウチの店のドーナツもこんな感じになるわ。
・・・多分。
しばらくして、空港で荷物が紛失してしまったマサコ(もたいまさこ)が
登場、何ともいえぬ不思議な雰囲気をかもし出します。そしてサチエの
目論見どおり店が満席になる日が来ます。胴のフライパンで手際よく
つくられる豚のしょうが焼き、傍の深鍋できつね色に揚がる分厚い
カツや鶏のから揚げ、パパッとふり塩をして小さな焼き網で一切れずつ
丁寧に焼かれる大ぶりの鮭の切り身。付け合せの野菜の盛られた皿に
できたてをのせて、ライスとともに客席へ。ぎこちなく箸を使いながらも
おいしそうに食べるお客さんたち。う~ん、私も食べたい!
この映画、原作も女性、監督も女性。私が睨んだとおりです。
今春CSNが開くドーナツカフェも、オープニングメンバーは女性が
中心。この映画にあるような、日常的でいてどこか非日常的な
感性がそこはかとなく漂う、そんな店にしたいと夢は膨らみます。
店の所在は横浜、白楽。フィンランドのヘルシンキとはいかぬまでも、
初めて足を踏み入れた私たちを魅了した独特の雰囲気は、この映画に
どこか通ずるものがあります。店の名は「縁(ENISHI)」に決まりました。
きっとドーナツの香りに誘われて訪れる沢山のお客さんで賑わう店に
なることでしょう。・・・多分。
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