フッと目を反らした、その瞬間、半開きの窓越しに男性の顔が有った。
歳の頃は60~70位だろうか?初老の割に皺が少ない。
細面で長身。化粧でもすれば、スラ~ッと着物が似合いそうな美人に
変身しそうな雰囲気を持つ。
「貴方は、5月30日に・・。」と男性が「ENISHI」で作業して
いた私に語りかけた。「えっ?」と私が応答すると男性は、あっという
間にドアを開けて店内に入って来た。
何だか奇妙だ。
戸惑っている私に向かって「コーヒー1杯下さい。」と男性はカウンタ
ー席に座った。喫茶店では無いという説明を私は2回も繰り返した。
しかし全く無視された。
その奇妙な雰囲気に呑まれた私は、仕方無くコーヒーを入れた。
顔で笑って心で(アア~私って相変わらず馬鹿だ。上手く断れない)と、
思いながら。
「アルツハイマーなんですよ。」と男性がポツリ。
(えっ?この人、アルツハイマー?)と一瞬私は思ったが声に出さなか
った。すると、「母がですね、お店で33万払ったと言うんです。」
唐突に始まった訳の分からない話に唖然としながら、とんでもない因縁
を付けられそうで焦った。
5月30日に男性の義母が「ENISHI」の近くに在るUFJ三菱銀
行で、お金を下ろした。そのお金が何処に消えたか分からないのだと言う。
何だか怪しい話が始まった。
要約すると、お金にルーズな義理の妹が義母をそそのかしてお金を下ろ
させ、横取りしたのではないか?という筋書きだった。そして、そのお
金の受け渡しを「ENISHI」でやったと確信していたのだ。
私は5月30日に、お店には居なかった。
そこで、「ENISHI」の代表に電話で聞いてみる事にした。
そして電話を掛けようとしてカレンダーを確認した。
5月30日は月曜日だった。定休日!!
本当に良かった。
変な話に巻き込まれなくて。
男性は諦めて帰った。
如何にも奇妙な雰囲気を持つ男性だった。生活感が全く感じられない上に
、アルツハイマーの義母の病気を心配する様子が伺えない。
気品が有って、お金に困っていない様に見えた。
別にいいではないか。
アルツハイマーの義母にとっては、実の娘なのだし。一時的にでもお金を
納得して上げたのだろうから。
後見人の補佐人だからと男性は理由付けしていたのが妙に気に入になる。
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