つか爛漫

 昨日は、男Nにブログを代わって貰っての久々の芝居見物。
所は新橋演舞場、出し物はつかこうへい作・演出「幕末純情伝」。
 つかさんの「幕末」は初演のパルコ劇場のを観ました。
かれこれ20年ぐらい前。その前に岸田今日子が主演した
「今日子」を新宿で観たとき、最後にこの「幕末」の予告編を
やったんですね。まるで映画館みたいに。怒涛のような音楽を
バックに繰り広げられる激しい殺陣の応酬。スピーカーの
大音響が「女が本気で恋をすれば歴史も変わる!」という
キャッチフレーズを叫ぶ。いやぁ、かっこよかったですねえ。
 主演はつか劇団屈指の女優平栗あつみ。今回宝塚の女優が
演じた坂本龍馬は、当時は西岡篤馬でした。3時間余の長い芝居
でしたが、本当に面白かったですね。でもその次に観た藤谷美和子
主演のやつは最悪だった。いかにつか演出がすごくても、主演女優
の力量がなきゃあ、芝居は台無し。ときにアイドルを主演に据えたがる
つかさんの芝居はこれが弱点(と私は勝手にそう思ってます)。
 今回も石原ナントカいうアイドルが主演と聞いて、ちょっと不安だった
のだけれど、つかさんの芝居は、2002年阿部寛が主演して話題となった
かの「熱海殺人事件-モンテカルロイリュージョン」以来実に6年ぶり。
因みにこの舞台はよかったですね。両国のシアターーX という狭い劇場で
やったのを2回も見ちゃいました。
 さて今回はというと、やっぱり石原ナントカには余り感心しなかったけど、
他はすっごくよかったです。シナリオも進化しているし、何よりつかワールド
がこの舞台にこれでもかというくらい凝縮してた。大勢の男たちがビシッと
タキシードできめて踊る「飛龍伝」ばりのダンスレビューも何回もあったし、
それにあの若林ケンが何と3回も歌ったんだから♪
 「熱海」ではたった1回だったのに。
大向こうから「ワカバヤシ!」と声までかかった。ウワッ、芝居っぽい!
 つかさんの芝居というのは、タイトルは同じでも以前観たのとは
ガラッと変わっているのが常なのですが、今回は時代背景からして
「幕末」が昭和の戦後とかぶり、憲法第9条とか、GHQだとかが
でてきます。設定も、沖田総司ばかりか「坂本龍馬も女だった」
から始まって、ハリウッドが総司を「風とともに去りぬ」のヒロイン
にと熱望しているとか、岩倉具視に鬼畜丸という隠し子がいて
「瞼の母」やらせたり、もう前代未聞、荒唐無稽。
 それに風貌がまるで似つかわしくない西郷隆盛が出てきて
(長髪に金色の燕尾服着てた!)、「生きて虜囚の辱めを受けず」
(何故か帝国陸軍の軍人が出てくる)と無理やり子どもと撃ち合わされて、
父だけが撃ち子どもは撃たなかったがために子どもを殺してしまい、
精神を病み、ゲイになっているのです。
 「親子が撃ち合って、父だけが撃ち子どもは撃たずに死んでいく」
というのは、いやでも三島由紀夫の「鹿鳴館」を思わせます。しかし
その後影山男爵が何事もなかったように平然と振舞うのに比して
人間の弱さをイヤと言うほど見せつけるのがつか流ですね。
この辺り、三島へのさりげないアンチテーゼも垣間見えます。
 
 それから特に面白いと思ったのは、新撰組の土方歳三が
発達障害みたいな造形をされていたこと。いかにも弱々しい
感じの、ラッキョウみたいな頭した俳優さんが演じていました。
「人と会ったらこんにちわって言うって習ったよ!」というのを、
やくざみたいな高杉晋作が「うるせー!」と怒鳴ってぶちのめす
というシーンがあったり、近藤勇に「回れ!」と命令されてずーっと
回り続けて倒れちゃうとか。
 この土方、自堕落な女房と大家の間にできた子どもを育てている
のですね。「女房はいつかきっと大家に捨てられて自分のところへ
戻ってくる」とか言いながら。でも最後に「こんなのやってられっかよ!」
と赤ん坊を放り出し豹変します。ウワッ!
 つかさんの芝居は、「前向きのマゾヒズム」とか言われいるらしい
ですが、畢竟サディズムとも隣り合わせです。「鬱屈した攻撃性が
ストイックなマゾヒズムとなり、ついにそれが爆発する」という
エピソードは、どの芝居にも見られます。今回の「幕末」で、近藤勇が
労咳の総司のために、医者に身体を売ってペニシリンを手に入れよう
としたのに、医者というのは嘘で、薬も手に入らず、その相手を殺して
しまうという場面がありましたが、これは「熱海(モンテカルロ)」でも
使われていたエピソードです。かの阿部寛扮する木村伝兵衛刑事部長
が、恋人だった棒高跳びの選手速水のために二丁目で身を売って
金を貢ぐのです。木村は自らもブブカと並ぶ世界的な選手だったのですが、
そのために選手生命も犠牲にします。そしてついに速水を殺すのです。
 舞台には「死ね!」「殺せ!」のセリフが飛び交い、殴る蹴るの暴力場面が
ひっきりなしに出てきます。人が人を完膚なきまでに打ちのめし、傷つけ、
そのぎりぎりのところで搾り出すようなセリフを吐く。口立てでセリフをつける
というつか芝居のまさに真骨頂です。つかさんの激しい演出に、役者は己の
心の底の底の、見せたくない汚いものまで一滴残らず吐き出させられる、
と言います。
 最後に今回の「幕末」で特に印象に残ったセリフを一つ。
水のみ百姓の長男として生まれ、親から弟たちの間引きを強制されて
トラウマになっている徳川の武士秋月兼久。丁稚奉公した若狭の米屋
で亭主を刺し殺し、女房を犯して金を盗み、秋月家の家禄を買ったと
いう経歴の持ち主。その秋月が男爵に上り詰めて、自由主義を標榜する
龍馬に言うセリフです。
 「六十四州の民百姓が飢えているっていうのかコノヤロー、それがどうした。
お前の作りたかったデモクラシーは、一人に損させんと一人が儲からない、
一人を不幸にせんと一人が幸せになれん、そういう政治形態だろうが。今
日本がのうのうとしていられるのは、アフリカやインドの貧乏人どもに石油を
使わせねえからだろ。そいつらが、『僕の勉強部屋にも、私の勉強部屋にも
クーラー一台』って言い出してみろ。石油なんかすぐになくなるよ。それを
させねえ様に戦争しかけていくのがデモクラシーだろ。何気取ってんだ
コノヤロー。坂本龍馬?天下の坂本龍馬?もうそんなクソみたいな名前、
覚えている奴誰もいねえよ。もうお前の時代は終わったんだよ。」
 それから今回買ったパンフレットに書いてあったのですが、「つかこうへい」
というペンネームは、とある演劇評論家の推測のように「いつか公平」から
きたのではなく、60年代の活動家「奥浩平」からとったんだって!うら若き
ハタチのかなりんの愛読書、「青春の墓標」。いつも持ち歩いてぼろぼろに
なってたまさに「青春のバイブル」でした。ギャハッ!!
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