上野の森のネオテニー

 先週半ばにたまたま上野に行くことがあり、
ついでに上野の森美術館に寄って来ました。
以前日経で紹介されていた美術展が開催されて
いることを思い出したからです。
 上野も久しぶりなら、美術館などなお久しぶり、
夕方からの入館でしたが、閉館までゆっくりと
鑑賞することができました。
 開催されていたのは「ネオテニー・ジャパーン」
と題する現代美術展。1990年以降の日本に
台頭してきた独特の作風。今や世界中から
注目を集める若いアーティストたちの作品群が、
圧倒的な存在感を醸し出す、いや、何とも刺激的な
空間でした。
 日経では「ありそうで今までなかった美術展」と
紹介されていましたが、確かにそうですね。
それもそのはず、ここに展示されている33人の
作家の作品は、全て個人のコレクションによるものだ
といいます。その人とは、精神科医の高橋龍太郎氏。
「あなたの心が壊れるとき」などの著書がある
その道では有名な方ですね。
 しかしながら、高橋氏がこれほどのコレクターだとは
ついぞしりませんでした。コレクションは全部で1000点
以上に及ぶそうです。そういえば氏が以前著書のなかで、
「エルメスのバッグに50~60万も出すなら、その金で
現代美術家の優れた作品を買った方が遥かに価値がある」
というようなことを書いていたのを思い出しました。
確かに、20年前なら60万くらいで買えた作品が、今では
何千万もするのだそうです。
 高橋氏は私とさほど違わない全共闘世代。
並べられた作品を観ていくと、並々ならぬ感性の
ユニークさに驚嘆します。当時は無名だった作家達の
作品をたった一人でこれだけコレクションし、今や
その殆どが世界中から熱い視線を浴びている。
それも氏は投機的な意図で集めたわけではありません。
作品は全て氏個人の展示スペースで公開されている
そうです。いや~、快挙というしかないですね。
 「ネオテニー」というのは、生物学の用語で「幼形成熟」と
いう意味だそうです。ウーパールーパーとも呼ばれ、一時
ブームになったアホロトールというペットが、環境的な変化で
「サンショウウオ」に変身するような、幼形を保ったまま
性的にも成熟してしまう変態過程をこう呼ぶと言います。
20世紀当初にボルグという解剖学の教授が、「人類は
類人猿のネオテニーである」という衝撃的な主張をして、
この概念を一躍有名にしたのだそうです。
 この20年、豊かで気ままで自由な環境を謳歌してきた
日本の若者たちは、ゲーム、漫画、アニメ、ケータイに散財し、
「こどもの王国」を作り上げた。高橋氏の言葉を借りると、
「繊細で傷つきやすく、脆いくせに暴力的で、エネルギーが
溢れているかと思うと倦怠に満ちる」。そんな「こどものもつ
全能感がそのまま実現した夢の王国」です。それは「幼形が
そのまま成熟していくネオテニーそのもののことでもある」と
高橋氏は述べています。(ワ~ォ、それなら男NのNって、
もしかして「ネオテニー」のN?!)
 そのうえ、「世界で最も精緻を極めた技量をもつプロ集団に
よって支えられていた」この王国は、世界中で評判を呼び、
「同じ感性を育ててきた日本の作家たちが、既成の洋画壇から
遠く離れたところで、表現活動を開始した」のです。
 「今やアートはかつてのように見上げたアートではなく、
地上に目を下ろし、自分たちが発見するものとなっている」
と高橋氏は言います。「アートのネオテニー化を世界中が
受け入れつつある」と。
 確かにその作品たちは、どれもどこかで見たことが
あるような、それでいて極めて個性的で強烈な雰囲気を
撒き散らしています。サブカルチャー的であり、おたく的であり、
ファンタスティックであり、過剰なまでに精緻で巧みです・・・
 と書いていて、その感じを言葉で表すのは至難の技だと
気づきました。7月15日までやってますので、興味の
ある方は是非行ってみてください。
それこそ「百聞は一見に如かず」です。
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