見えない「証拠」の見せ方

 当NPOが運営顧問を引き受けている
都内某区の「生活保護受給者意欲喚起事業」。
開始からからはや5か月がたち、先日久しぶりに
事業所を訪問。午前中は相談の様子を見たり、
スタッフに話をきいたり。午後からは
ちょうど開催されていたセミナーを見学。
参加者とも話をした。
 自分のの意欲を喚起するのもなかなかなのに、
人の意欲を喚起するのは難しい。まして就業に
つなげていくのは大変だ。民間受託の常として
「見える成果」を求められるのも悩ましい。
「見える」といえば「就業件数」という
千年一日の観念を役所に変えてもらうのは、
どうやら至難の業らしい。
 現場のスタッフさんたちは、増え続ける
来談者の対応にフル回転で頑張っているが、
ここに来て俄かに強調され始めた就業率に
幾何かの困惑と焦りも感じられる。せっかく
根気よく丁寧に進めてきたケースも方向転換を
考えざるを得ない。
 当方の運営指針も方向転換が必要だ。
当初は「意欲喚起」ということで「一人ひとりの
事情に即した目標設定と支援」という方針で
出発したのだが、それではなかなか「見える成果」
は出てこない。成果を見せられなければ、事業
そのものの存続も危ぶまれよう。
さて、どうしたものか。
 最近の心理臨床では「EBM」ということが
盛んに言われるようになっている。
‘Evidence Based Medicine’つまり「証拠に基づく医療」
ということだ。特にアメリカでは、保険金の支払いに
絡んで強調される。「医療を施すならそれが有効だという
証拠を見せろ、じゃなきゃ金は出せない」というわけで
ある。とりわけ成果が目に見えにくい心理臨床の世界で
こうした要求は今後益々強まる傾向にある。
 日本でも社会保障費の支払いが厳しくなるにつれ、
‘evidence’に対する要求は強まるだろう。今般の
生保事業への民間参入促進も、「官」では遂げられぬ
「成果の可視化」を求めてのことだとは、推測に
難くない。一人ひとりの生身の人間に接する現場と
机上で数字だけを眺める役人との溝は、今も昔も
深くて広い。そこをどう埋めるか、大局を俯瞰した
戦略が必要なときである。
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