「人生の正午」と厄年

 この9月から放大大学院「臨床心理学科」の選科生に
なった。「臨床心理学特論」という分厚いテキストが
届いたので、今せっせと読んでいる。
今日は「ライフサイクル論」を読んだ。
 「ライフサイクル」といえば、すぐ思い浮かぶのは、
エリクソン,E.H.である。
かの「アイデンティティ(自我同一性)」という言葉を
つくった御仁であり、人生を8段階に分けたなかで、
とりわけ「青年期」の危機に重点を置いたことで知られる。
 勿論フロイト,S.もはずせない。
彼は特に「幼児期」に注目した。
誕生からの精神的発達段階を、「口唇期」とか「肛門期」
とか「男根期」とか、性を暗示する名前をつけ、その時期に
未解決の問題があることを「固着」と呼び、その後の性格や
病的症状の生起に関係があるという理論を展開した。
 口唇期性格は甘えん坊で依存的、要求がましく落ち込みや
癇癪を生じやすい、肛門期性格は過度の几帳面、潔癖、頑固、
倹約、吝嗇…なんて、「あら、思い当たるとこあるじゃん」と
一人でにんまり。
 次にフロイトと並ぶ巨匠、ユング,C.G.の名も挙がっている。
何と彼が最も重要視したのは「中年期」。彼はこの時期を
「人生の午後」と呼び、「午前から午後に踏み出すときは、
午前に属するものから脱皮しなければならない」と述べて
いる。西欧文明におけるこの期の人々の示す「嘆かわしい
疑似青年ぶり」に言及、東アフリカの部族に残る「通過儀礼」
の慣習と、その後の人格的成熟に敬意を表しているところは
いかにもユングらしい。
 「人生の午後」に折り返す節目のポイントを、ユングは
「人生の正午」と呼んだ。年齢にすれば35歳~40歳、自我を確立し、
社会的地位を築き上げた人生の正午に立ち、人は今まで自分が
無視してきた側面気づき、新たな葛藤と苦悩に直面して
中年の危機を迎える。しかしそれを克服していく過程こそ、
彼の言う「個性化」のプロセスだ。「中年期こそ真の自己実現が
なされる時期だ」とユングは言う。
 ユング自身も、それまで30代を共に過ごしたフロイトと
38歳で決別、それから6年間は深刻な心理的危機に陥ったと
いう。苦しみながらも彼はそれを克服して、今日のユング
心理学の楚を築き上げた。これぞまさに彼の「個性化」の
プロセスだったのだろう。
 因みにユングが「人生の正午」とした年齢は、日本の
男女の厄年(女33歳、男42歳)とほゞ一致する。節目の
年齢はどこでも同じってことか。とはいえ正午になっても
一向に折り返せない「疑似青年」も増える一方だ。
ユングが見たら「何たること!」と嘆くかもしれない。
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