サクセスフル(successful)とは、「成功した」とか「好結果の」
という意味である。エイジング(aging)は、「年をとる」こと。
つまり、「首尾よく年をとる」という感じであろうか。
日本では、「幸福な老い」とか、「満ち足りた老年」などと
訳されているようだ。
社会心理学では古くから考えられている概念だが、
高齢化社会が進むにつれてとみに注目を集めるようになってきた。
私にとっても、これからの介護分野での仕事に役立ちそうだし、
何より自分自身がその只中に身をおく課題でもあるので興味を引かれ、
幾つか研究論文を読んでみた。
随分沢山の研究がなされているのに驚いたが、その大半は
介護の世界ではお馴染みのQOL(quality of life;生活の質)
の概念と絡めて論じられている。単に悪いところやできない
ところを補足するような介護ではなく、その人の生活全般の
質を上げるような介護をしなければならない、との指針は既に
唱えられて久しい。しかし「生活の質」という概念は、なかなか
捉えるのが難しい。 QOLには、客観的な側面だけでなく
主観的な側面もある。様々な尺度が開発されているが、それを
数量化してその全容と共通項に迫るのは簡単ではない。
心身の健康や生活環境の整備は客観的次元で測定できるが、
主観的側面、いわば心理的な満足度をどう測るかである。
SWB(subjective well-being;主観的安寧)の指標がそのために
利用され、LS(life sutisfaction;生活満足)、PA(positive
affect;ポジティブな感情)、NA(negative affect;ネガティブな
感情)などがその下位指標として使われている。
サクセスフルエイジングを実現するには、QOLを保つことが
必須の条件であるとも言える。だがサクセスフルエイジングに
焦点を当てて、その辺りをもっと詳しく調査した研究によると、
事はそう簡単ではなさそうである。
確かに客観的に負の要素と思える「病気」や「孤立」、
「経済的な困窮」などは、主観的満足度にもマイナスに働くようだ。
だが、客観的にプラスの要素が、主観的満足度と正の相関がある
とは限らない。まあこれは、いくら恵まれた環境にあるように
傍からは見えても、当人は幸福とは限らないという例はいくらでも
あるから、分からないでもない。しかし、どうも幸福感の鍵を
握るのは、その人の持つコンピテンス/ライフ・スキルらしいのだ。
とはいえ、幸福感とコンピテンス/ライフ・スキルとの関連を
詳細に調べた研究データは、かなり複雑な様相を示している。
例えば「孤高」「マイペース」「個性が強い」といった「社交性の低さ」
を物語る要素は阻害的に働く。しかし「積極的親密性」や「親和性」
といった社交的な能力もまた幸福感を高めず、むしろ阻害している
という結果が出ている。また、「アスピレーション」「ノーティー」
などの一見ポジティブな要素にも阻害的な一面があることを
明らかにしている。
幸福感と明らかに正の相関が出ているのは、「目標設定」「体力」
「自分を大切にする」「支援(家族外)資源」「自己統制」「手先の器用さ」
「折り合い」「ストレス処理」などである。これらは経済的豊かさ
よりも幸福感を左右するスキルであるという。幸福感を育むには、
「野心」より「自分なりの目標」、「社交性」より「折り合い」、
「家族資源」より「家族外資源」、「気まま」より「自己統制」が
大事といったところだろうか。
もともと「幸福感」などという曖昧なものを数値で測ろうとすること
自体に無理がある、と思われる向きも多いだろう。人間にとって
「不幸」は定型だが、「幸福」は千差万別とも言われる。外的な条件や
能力の他にも性格や思想、感じ方など様々な要素の影響もある。
「サクセスフル」な年の取り方を探るのは存外に難しそうだ。
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