子どもの頃、クリスマスは、もうすぐ「お正月」という大イベントの前触れとも言うべきワクワクするような日だった。それはまた一年に数えるほどしかないケーキの食べられる日でもあった。今でもあの頃の浮き立つような楽しい気分がどこかに残っているような気がする。
デモと芝居に明け暮れていた学生時代、クリスマスは「プチブルの堕落の象徴」と相成った。それでもケーキだけには未練がある私は、家の近くの山崎パンの店でホールのケーキを買い込み、一人で全部むさぼり食い、あげくの果てに気持ち悪くなって寝込んでしまった。あの頃のことは…思い出したくもない。
クリスマスにデートをして、まずくて高いフランス料理(冷え切ってた!)を食べ、ワインとムードに酔ったはずみではまった幾つかの恋も、やがては料理と同じように冷え切った。あの頃のことも…余り思い出したくない。
ここ何年かは、仕事帰りに恵比寿の「動く歩道」を埋め尽くすカップルに苛立ちつつ、「右端あけてよ!」と喚きながら、真ん中を引き裂くようにしてかきわけかきわけ、「いやなおばさん」という幾多の白い目にも負けず怯まず帰宅するのが恒例となっていたクリスマス。
それでも「今日はどこかに食べに行こう」という夫の言葉をあてにして、ちょっとワクワク気分で帰宅した我が家の食卓には、寿司折りがポツンと2つ。それを前に「どこも2時間待ちだと!」と憮然とした顔の夫。出かけると思ってケーキも買って来なかった。ッタク!。
「寿司屋ガラガラ」「そう…」と会話もはずまぬ侘びしい初老夫婦のクリスマス。
そして今年は…一日中家にいて、動く歩道もガーデンプレイスのイルミネーションも目にせず、すっかり脳裏から消え去っていたクリスマス。夕食のとき夫がかけていたクリスマスソングのCDを聞いていてやっと気がついた。今日の献立は豚のショウガ焼き。
「鶏肉にすればよかったかな」「別に何肉でも食っちゃえば変わらん」
と会話の貧しさは相変わらずの老夫婦。もちろんケーキも買ってない…。
でもいいのさ。クリスマスイブには明日がある。明日ならケーキも割引きで買えるかもだし、厳密に言えばクリスマスとは明日のことだし、今夜からクリスマス気分を盛り上げて、フライドチキンも買って豪勢にやるのさ、と年を重ねるごとに立ち直りが早くなる私。
「クリスマスを何だと思っているのだ!」とキリスト様から怒られそうな聖しこの夜…。