一人暮らし

 先日会員のIさんと喋っていて、「所得格差」の話になり、そのときIさんがこんなことを言っていました。
「確かに格差は是正していかなくちゃならない問題だとは思うけど、何せ今は異様に一人暮らしをする若者が増えていると思いませんか?ウチの父が言ってたけど、昔は事務の女の子に一人前の給料なんか出さなかったって。どこの家も何人かの働き手がそれぞれの収入を持ち寄って家計を支えていた。それがばらばらになったら、格差が出るのも当然じゃないですか?」
 うーん、確かにそう言われてみればそうかもしれないなあ。我がNPOの会員さんにも一人暮らしが多い。このブログを書いているライター7人を見ても、そのうち4人が一人暮らしをしている。過半数とはなるほど異様と言えば異様かもしれない。因みにIさん自身も事務職の一人暮らしで、「こんなこと言えた義理じゃないんだけど…」と前置きしてたっけ。
 私の若い頃は一人暮らしなんてしたくてもできなかった。Iさんの父上がおっしゃるように、就職したての女の子に一人で暮らせるようなお給料なんてどの会社も払わなかったし、採用の条件に「親元から通えること」なんてのを入れてるところも多かった。地方から上京している男の子にしても、大方は学生時代は学生寮、就職してからは会社の独身寮ってパターンでしたね。
 参考までにちょっと東京都のホームページを覗いてみたら、単身世帯の数は年々増加して、今は約570万世帯のうちの240万世帯にまで増えています。高齢者の単身世帯も増えているだろうから、全部が若者の一人暮らしとは言えないまでも、相当多くなっていることは事実でしょうね。それに住民票を移していない人もいるだろうから、実際はもっと多いのだろうと思います。
 私の場合はうるさい親から逃れるために、卒業早々に結婚してしまいました。親から自由になる方法がそれしかなかったのね。相手の住んでいた4畳半一間のアパートで二人暮らし。これだと世帯数は増えないのよね。もし私が一人暮らしをしたとしたら、2世帯で済むところが3世帯になるから、確実にパイの分け前は減ってしまう。それに自分一人の食い扶持を取ってくるような力もなかった。今はパイも大きくなって、女性も以前よりは力を持つようになったとはいえ、限度はあるし、より大勢の人数で争うわけだから競争は激しくなるわよね。昔は割を食うのは殆ど女性だったけど、今は男性も割を食う人が多くなった。それが「格差」となって表われてる、とまぁ、いかにも素人のラフな分析ではありますが、そんな風に考えられるわけです。
 折りしも日経に面白い記事を見つけました。世帯の収入が日本一豊かなところは、東京でも大阪でもなく、意外にも北陸の富山市なんだそうです。世帯の平均月収は何と71万円。100万を越える世帯も多いのだとか。どうしてこんなことになるのかというと、富山市では2世帯3世帯同居の家族形態が普通で、女性の常用雇用率も66%と日本一。世帯主以外の家族も総出で働いて収入を持ち寄る「多財布家計」なのだそうです。家族が多ければ、一人前の稼ぎがない家族がいてもカバーできるし、子どもの面倒を見る手にも困らない。そういう総働き家庭を行政も様々な制度をつくって後押しする。こうして都会の核家族が逆立ちしてもかなわない豊かな労働環境を作り上げているのだとのことです。
 「イエ付きカー付きババ抜き」という結婚の条件が喧伝されたのは、もう一昔も二昔も前のことです。今は結婚どころかシングル世帯が急増しているこの大都会。私も若い頃一人暮らしができていたら、そんなに急いで結婚なんかしなかったかもしれません。ましてや2世帯、3世帯同居の大所帯で暮らすなんてまっぴら御免の気分でした。今でもどんなに豊かで暮らしよくても富山で暮らしたいとは思わないけど、都会でぎりぎりの一人暮らしをするのもしんどい話ですね。余りにも苦しいようだったら実家への「Uターン」も考えてもいいのかもしれません。
 誰にも煩わされず自由に自分だけのライフスタイルを満喫できる一人暮らし。しかし、その「自由」と引き換えに支払わなければならない代償はけっして小さくはありません。何が起きてもわが身一つが頼り。能力、資産、健康に恵まれて、パイを大きく分捕れる力がないと容易く破綻してしまいます。 私たちの世代があれほどに憧れた一人暮らしが、今や不安と格差の温床になりつつあるとしたら何とも皮肉なものですね。
 それでもやはり捨てるにゃ惜しい一人暮らしの自由と気概。どんなに悪戦苦闘をしても手放したくないのなら…、やっぱりブートキャンプで腹筋を鍛えることですね。
 
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