シスターボーイは戦う人

美輪明宏だけを取り上げた、30分の歌番組を観た。
彼といえば、金の長髪で霊だとかオーラだとかをとくとくと話し、
歌手というよりスピリチュアルコメンテーターといったイメージで、
これといって興味がなかった。
本業の歌もそれほど惹かれず、
代表作の「メケメケ」「ヨイトマケの唄」は聞いたことがあっても、
好んで聴くようなものではなかった。
「愛の讃歌」もカバーしていたが、やはり越路吹雪がいい。
昨年末の紅白歌合戦では初めて出演をし、その絶唱姿は高い評価を得ていた。
周りが「すごい、すごい」というほど、私にはピンとこなかった。
だが先週、寝る前にテレビを消そうとチャンネルを変えたときに、
偶然にも彼が映った。
ステージ衣装は紅白に出演したときと似たようなもので、
たぶん「ヨイトマケの唄」や「愛の讃歌」あたりを歌うのかと思い、
30分程度だし観ることにしたのだ。
しかし驚いたことに、選曲はこれまで封印していた曲ばかりだった。
戦争により失われた命とその悲惨さを歌った「亡霊達の行進」。
原曲のシャンソンをもとに、彼が自らが訳詩、歌った「人生の大根役者」。
そして、ヨイトマケの唄が出るまでの辛い時期を歌った「金色の星」。
感想はそれぞれあるだろうが、
私は美輪明宏に「この人はやはり男だ」と感じるものがあった。
それは格好だけの話しではなく、やはり経験が培ってきたものだろう。
戦争、シスターボーイ、反戦歌の発禁。
これら一連の経験はどんなに自らの思いを声にし、表現をし、訴えても、
世相や社会の不条理とぶつかり、打ちのめされることがある。
それでも諦めることなく戦い続けてきたからこそ、
養われてきたもののように思う。
戦争はしてはならないという先で人的差別があるのは、
どうしても矛盾でしかない。
消されてしまうのか、消される前に何かするのか。
美輪明宏という人は、歌とシスターボーイの格好を武器に、
その社会の矛盾の中を生きた人なのだろう。
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