春はキライだった。
 なんとか一年、自分が築いた城壁をクラス替えやら進学やら異動やらで、
 また一から新しい環境で造りなおさないといけない。
 新しい門出の雰囲気は、不安の裏かえしの分よけいに華やいで見えたりして。
 それに気づかぬふりして楽しむなんて、どこに何がなんて余裕はありゃしない。
 自分はとにかく世間体をつけることに意識が集中して、
 ましてやセクシャリティ対策をどうするかとか、
 なにをどう言い訳するかなんてことを考えてた。
 なんでそこまでしなきゃいけないのかって、怒りながら。
 でもそれは、一般社会を渡るため以外にほかはないだろう。
 そんな春はキライだった。
 今年…
 サクラやジンチョウゲの香りが気になった。
 そういや待合室から見える黄色の花ばなも。
 開店前から列をなしてるパン屋が気になり、並んで買ってみたら自分のテイストに合うことがわかった。
 火曜木曜にしか開店しない修理屋さん?に老いぼれたシーズーがいたことに気づいた。
 窓から見える庭の木が去年伐採されたけど、そこから新しく芽吹き花をつけたのに気づいた。
 そして、この春キライだった自分が、
 春もいいじゃんというのに気づいた。
 私がそこにいないと思うときは、そこにいないのさ。でも私がそこにいないと思っても、私はそこにいる
 ![]()
 