空白?白光?異次元?
ハンドル操作不能!!!
目は閉じていないはず・・なのに視界には何もなかった。
真っ白というより意識がどこかに飛んだのだろうか?
次の瞬間、反対車線のバス停の前に真っ逆さまに落ちた。
車の転倒事故。全損。
見通し良好。真っ直ぐに伸びた道路は何の障害も無さそうに見えた。
今から3年半前、肌寒い秋の早朝に起きた出来事だった。
その日は平日で、少し離れた友人宅に、書類を取りに行く予定だった。
朝食前という事も有り、気持ちの余裕は無かったように思う。
運転歴は約25年でゴールド。運転には多少の自信があった。
納品後、一か月も経たない新車で、しかもマニュアル車。
どんなにスピードを上げたとしても、高速道路以外では3速までしか
使わないようにしていた。
3車線の左端を走っていたが、前方500メートル位の所に大型トラック
が停車していたので真中の車線に車線変更しようとした。
ハンドルを右に切った瞬間、ハンドルがグイッと引っ張られたかと思うと
フワッと浮いた感じがした。原因不明。
初めての感覚に戸惑いながらもバックミラーを確認したが、数台走っていた
筈の車は一台も見当たらなかった。そのうちハンドルは全く操作不能になり、
ただジグザグと走った感覚だけが自分の意識の中に残った。
距離にして約500メートル、時間にして僅か5~10秒。
その5~10秒間は、まるでスローモーション状態で、「自分が事故死する筈が無い」
と何度も思いながら「あっ、もう死ぬ。ごめん!」という家族、特に子供に対する離別の
悲しみにも似た諦めの思いだった。
「生きたい」という極限状態の思いが、現実認識を拒否したのだろうか?
視界には、真っ白な光以外、何も見当たらなかった。
上下逆さ状態になりながら青空を眺め、生きている自分を確認するなり、「勝った!」
と瞬時に思った。
何に「勝った!」のか?自分自身の生き方に「勝った!」と思えた。
何故か、奇妙な程、笑えた。腹の底から笑いが込み上げた。
無傷な自分とグシャグシャの車が対象的で妙に非現実的だった。
車は信号が赤で一斉に停止中。バスも丁度、バス停に着いたばかり。
その為、他人を巻き添えにしなくてすんだ。
数秒ずれていたら大事故で多数の死者が出たかも知れなかった。
それを思うと、本当に考えられないくらい幸運だった。
この大事故は自分のターニングポイントになった。
事故る前は常に時間に追われ、自分を追い立てるように生きていた。
事故った後は、ゆっくり、楽しみながら自由に生きようと決意した。
何かに囚われていた自分が、解き放たれたような爽快感。
ずっと悩み彷徨い続け、持て余し気味だった自分の生き方を肯定されたような安心感。
あの時の、例えようのない神々しさは、時空を超え、いつでも自分の脳裏に蘇る。
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