「不安」を辿れば・・・

 毎日雨もよいの日々。今日こそ晴れるのかと思ったのに
何だかすっきりとしない空模様ですね。お陰で洗濯物が
たまり放題。おまけに連日寝不足気味で、気持ちの方も
あまりすっきりしない。勢いブログのテーマもすっきり
決まらないので、このところつらつら考えてることでも
つらつら書いてみようかと思います。 
 フロイトと同時代の精神分析家にオットー・ランクと
いう人がいますが、私がこの頃つらつら考えているのは、
彼が提唱した「出産外傷」という概念についてです。
「心理臨床大辞典」(培風館)によると、ランクは次のように
考えたと説明されています。
 「出産は新生児にとって、物理的にも心理的にも、
生理的分離による母体という安全な楽園の喪失と
いう深刻な外傷体験となり、後年成人してからの
個体の対象との精神的分離の中に象徴的な形で
再現され、あらゆる不安反応の原型となる。
それゆえにその後の人生は、それを克服する努力から
成り立っており、その失敗が神経症の原因となる」
 要するにランクは、「不安のおおもとは出産によるトラウマにある」
と考えたわけですね。彼は若い頃非常にフロイトにかわいがられた
そうですが、そのフロイトも「不安(angst)」の語源がラテン語の
「狭さ(angustiae)」であることを指摘し、この狭さは出産時の圧迫感、
息苦しさにつながり、不安の原型は出産での不安体験であると
述べています。
 どうして私がこんなことをつらつら考えたかというと、
それは「男N胎内回帰願望説」が出てきたからで(こちら)、
どうやらそれは多くの「引きこもり」にも共通するものらしく、
「どうしてそんな叶わぬ願望を強く持ち続けるのだろう」と
考えているうちにこの「出産外傷説」に行き当たったという次第。
 「何と男Nが究極的に希求しているものは『母体という安全な楽園』
だったのか!」
 もっともこの説は、後年ランクがフロイトと訣別するとともに、
フロイトが支持しなくなったことで、後世にもそれ程広まりませんでした。
しかし今読んでみると、「全くぴったりじゃん!」って思います。
この「引きこもり現象」が増殖している21世紀の日本で、ランクが
再び見直される日が来るかもしれませんね。
 ランクがフロイトと袂を分かったのは、神経症の治療方法としての
「精神分析療法」を批判したからだそうです。彼は、「治療に大切なのは、
『抵抗』や『転移』の『洞察』ではなく『治療体験』そのものである」として、
独自の「意志療法」というのを提唱しています。「精神分析という意志に
対する消極的な逆意志である抵抗や転移を解消するのではなく、
その意志をより積極的な創造的な意志へと変容することが治療の
目的である」というのですね。「そうすることにより患者は『創られたもの』
から『創るもの』へと移行し、自己の個人性を生み出すという再生体験を
持つことができる」とされています。
 この理論は後のロジャーズの「来談者中心療法」にも少なからず
影響を与えたと言われています。確かに人間を「創造的な主体」と
捉えるロジャーズは、「体験過程」という概念を提唱し、その過程で
人間としての創造性を獲得していくことを治療の目的に据えています。
 さて、男Nは「創られたもの」から「創るもの」への変容を
成し遂げられるでしょうか。 もっともこの命題は、男N一人の
ものではなく、どうにかして「不安」から逃げようと四苦八苦している
多くの若者たちにも当てはまるのではないでしょうか。
 折りしも本格的な梅雨の気配が濃厚な今日この頃、
来週もこんなすっきりしない空模様が続くようなら、
またつらつらと考えて続編を書いてみようかと思っています。
blogranking.gif
ブログランキング・にほんブログ村へ
↑ブログを読んだらクリックしてね!

カテゴリー

投稿の月