目と耳の効用

 まだ師走にもならぬうちから寒さが身に染みる今日この頃。
長年の懸案であった我が家屋の名義変更がようやく完遂目前となった。
今週は連日法務局に通いつめ、暖房のきかぬ待合室での長い待ち時間に耐え、
ようやく書類審査を通って提出を終えた。後は出来上がるのを待つばかり。
振り返れば一年がかりのプロジェクトとなった。
 母が亡くなってから早や8年の月日が経ち、やらなきゃ、やらなきゃと
言い暮らすこと5年余、やっと重い腰を上げて本籍地の世田谷区役所に
赴いたのが2年前、そこからまた無為に月日は過ぎ、「今年こそは」と
年の初めに改めて思い定めて何とか年内ギリギリで辿り着いたゴール。
いやあ、長かった~!
 法務局にはNPOの登記で毎年のように通っていたので、最初の相談は
ついでにという軽い感じだった。母が亡くなって確か1年後くらいのこと。
そのときは、法務局らしからぬ人の良さそうな年配の男性が相談に
あたってくれて、丁寧に説明してくれたのだが、集めなければならない
書類の多さとその余りの煩雑さに呆然としてしまった。とても自分だけの
力では無理な感じがしてそう言うと「行政書士とか司法書士に依頼する
手もあるけれど、何十万ものお金がかかりますよ。自分でやった方がいい」
と諭された。そういえば、母が登記をしたときは法律事務所に頼んで
25万円もかかったとこぼしてたっけ。
 「もし名義変更をしなければどうなるんですか?」と尋ねると、
「次に相続をする人がその分までやらなければならなくなります」
との答え。何だかちょっとやけくその気分になって、「死んだ後の
ことなんかどうでもいいから、もう放っとこうかな」と言うと、
彼は真顔になって私を見つめた。そして「あなたは目が見えますか?」
と聞く。「はい」。「耳が聞こえますか?」「はい」。
そこで彼は大きく胸を張り、力強くこう言った。
「じゃあ、大丈夫。あなたは自分でやることができます!!」
 確かにその通り。私は自分でやることができた。
客観的に見れば大して意味のないことかもしれないが、
この達成感、私にはもう格別。難関をクリアしたアスリートみたいな気分だ。
それにしても「目と耳があればできる」というあのセリフ。
常に私の頭のどこかにあって、投げ出したくなるたび思い出した。
挫けそうになる私を、かくも長きに渡って支えたこの言葉。
名も知らぬ老相談役の気迫に満ちた口調とともに甦る。
蓋し名言。忘れ難い。
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