山の上のピッキー。
今週火曜日、山梨県の初狩駅から高川山(975m)に一人登山した。
平日で曇り。往きは誰一人として出会わず、単調な登りに珍しく溜息。
高川山は秀麗富獄十二景の11番山頂に当たる。
頂上は360度の大展望で真正面に富士山が見え、南アルプスの間ノ岳、
甲斐駒ケ岳も見える予定だった。
曇りの為か、木々の緑が冴えず、何故か植物の息吹さえも絶え絶えの
ような気がして、登る気力に欠けてしまった。7月下旬に行った谷川岳
一の倉沢があまりにも絶景だった為、その差に・・。
足取り重く、やっと頂上が見えて来た。
えっ?誰か待っているのか?じ~っと見下ろす視線。
見上げている私を待っているのだろうか?
暫く相手の出方を見た。動かない。
グレーに所々白の混じった毛と真っ黒な瞳。
恐る恐る、相手の視線を外しながら頂上に到達してみた。
相手は視線をこちらに向けながらも距離を縮めては来ない。
ホッとした。そして奇妙な親しみを覚えた。
優しく穏やかで寂しげなワンちゃん。首輪をしていた。
子供の頃、スピッツに思い切り足首を噛まれて以来、犬が恐い。
どんなに可愛く小さな犬でも自分から近づいた事は無い。
犬が近づくと足が竦む思いで、直立不動になる。
頂上にワンちゃんの飼い主は見当たらない。
頂上には私とワンちゃんだけだった。不思議なワンちゃん。
何故か気持ちを読まれている錯覚がする。怖くない!
近づいて頭を撫でてあげたかった。でも、しなかった。
そのうち、ワンちゃんは曇って見えない富士山の方向をみながら、崖淵の
石の上に、山を眺める様に座った。不思議な時間が過ぎた。
霧で360度、すっきりしない景色にガッカリしながらも気持ちは和んだ。
下山しようとワンちゃんの傍を離れ、頂上から下に降り始めた。
ワンちゃんがスッと立ち上がり、後を追って来た。
別れ難かった。何か食べ物を置いていきたかったが、ワンちゃんが食べれ
そうな物を持っていなかった。可哀想だった。
何度も何度も頂上を振り返り下山した。その度にワンちゃんの視線を感じた。
人間だったら親友になれたかも。
麓近くになって、一匹の犬と一緒に登山する女性と出会った。
連れていた犬は頂上で見た犬と同種だった。
私は思わず、「その犬は・・・。」と語りかけた。
その女性は「この犬に似た犬が上に居たでしょう。もう7年経つのよ。冬も
立派に越せるし。」
驚いた私は「飼い主に置き去りにされたのでしょうか?食べ物は?」と聞いた。
「迷ったか、置き去りでしょう。食べ物は登山者が与えているみたい。」と。
ワンちゃんの寂しげな顔がチラつく中、農家のお爺さんに出会った。
「もう登って来たの?頂上にビッキーは、いた?」とお爺さん。
「えっ、あの犬はビッキーと言うんですか?」と問う私。
「登山者が皆で名前をビッキーとつけて可愛がっているんだよ。今日は平日で誰
もいないけど土曜日は賑やかで、登山者が登ると、ビッキーが人懐っこく近づい
て来るから、登山者には大人気なんだよ。」とお爺さんは説明してくれた。
ああ~。良かった。登山者がちゃんと食べ物を用意してくれて!
低い山は夏山では無く、富士山に雪が積る頃に登った方が絶景に出逢えるという事
をしみじみと感じた登山だった。
又の機会には秋冬、ビッキーの食べ物を用意して行きたい。
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