前略、ゲイバーのカウンターより

ゲイバーを営むKさんとSちゃん。
二人とも20代の頃からバーでアルバイトとして働き、
30代になってからそれぞれ自分の店を構えた。
両店は開店月は違えど、今年度で10年を迎える。
10年間自分の店を構えてやり続けるのは、
根気だけでなく様々な困難にも立ち向かってきたのだと思う。
特にバーのある二丁目の盛衰は、
商売をする人にとってはかなりの痛手ではないだろうか。
二丁目は90年代中頃が最も華やいでいたが、
今となっては週末でも全盛期ほどの勢いや活気がなくなった。
その背景には90年代後半からインターネットが出回り、
急速な普及により出会いの場が二丁目からバーチャルへ移行し、
そこへ追随するように世代交代による価値観の違いがある。
ゲイが二丁目を離れていく一方で、
マスコミが二丁目を取り上げオネエが身近になったことで、
一般人が二丁目に関心を持って訪れるようになった。
私は二丁目でゲイより一般人が多く見られる風景に違和感がある。
けれども、二人はどんなに世情が変ろうと客が一般人であろうと、
来てくれるお客さんのために店を開ける。
とはいえ、ゲイだけの店内になると、
「今日はゲイバーっぽい」と言うのは皮肉な本音だろう。
二人とも見た目やカウンターで見せるキャラクターは違うが、
時々話す胸の内は意外なことが多かったりする。
Kさんは店を開けに来るのが苦痛でたまらない時があり、
Sちゃんは大の人嫌いで初対面が非常に苦手だという。
このような気持ちがありながらも、
カウンターに立てばそんなことを微塵も感じさせないほど、
バーのマスター(ママかも?)としてお客さんの応対をする。
二人ともカウンターを通じて二丁目の過渡期を見てきたぶん、
葛藤も大きいのだと思う。
しかしそのたたずまいは店の主としての誇りでもあり、
10年続けてきた自信のように感じる。
Kさんなら「あら、そんなこと言うならあんたが来なさいよ(笑)」
Sちゃんなら「そんな小難しいこと言ってないで、飲みなさいよ(笑)」
そんな声が聞こえてきそうで、今夜もカウンターで酒をふるまうのだ。
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