傾鳥・クリちゃん

今から15年以上も前になるか、我が家にセキセイインコがやって来た。
とはいえ年の暮れで、母親がそれまで飼っていたインコを逃がしたり、死なせてしまったりして、
もの寂しさから替わりのインコを衝動買いしてきたのです。
年末の寒い時期は、インコの繁殖期に適していなく、致死率は高いそうだ。
やってきたヒナも3日でダメかもというほどに、弱々しかった。
しかし献身の介護?あってか、みるみる元気になり、
我が家での伝説となるほど長生きをしたのです。
名前はクリちゃん。
目が大きくからだのバランスからして頭も大きい。
止まり木につかまっても頭とのバランスがとれず頼りなく、
夜は寝惚けてドサッと落ちては「グェ」と鳴くこともあり、その愛嬌とインコらしくないところが、
当時の自分には最高のトモダチだった。
言葉を憶えるのは非常に早く、名前のリピートはよくあるけど、クリちゃんはなぜか「たしかに!」という言葉も連呼していました。
そして家の中を飛び回らないように羽根を切り揃えたので、
ほとんど犬か猫かに近いインコになったけど、ほんとによくなついたクリちゃん。
クリちゃんは自分のあとをつけてあるく習性があり、自分としては部屋をフンでよごしたくないから
「来ちゃだめ~」と言うと、必ず部屋の前でジッと止まり、あまりのクリちゃん視線に仕方なくというか、
かわいくて「入っておいで」と言うと部屋に入っては、自分と遊んでいました。
クリちゃんが長生きしたぶん、家族それぞれに逸話はたくさんあった。
きゅうりが大好き。
ビールを飲んで酔っぱらう。
誰かが帰ってくると、玄関まで迎えに行く。
学校で嫌なことがあったら、クリちゃんを膝にのせ聞いてもらう。
そういう意味では、「傾聴」してくれた鳥でしたね。
色々和ませてくれたな…
でもある怪我から、別れは近づいていた。
たまたま自分の帰りが遅くなり、いつものように帰ると母親か「クリちゃんがお父さんに踏まれた!」
と、慌てるばかりでお父さんは晩酌中。
「動物病院探したの?」と聞いても探さない。
あまりの呑気さに自分は怒り心頭で親をなじり、急いでクルマを走らせてなんとか深夜でも受付てくれる動物病院を探し、応急手当てをした。
結局複雑骨折をして治る見込みはなく、左脚はビッコになった。それでもクリちゃんは持ち前の気性とパワーで、
片脚でも自分のあとを追い、そのいじらしさが逆にいたたまれない気持ちにさせた。
しかし二度目も同じく父親に踏まれ、かかりつけの病院へ行くも休診で別の病院へ行ったけど、
いつもの応急処置とは違い、なぜかテーピング。この処置がクリちゃんを衰弱させていった。
ただでさえ左脚ビッコなんとかなのに今度は右脚。そしてテーピングの強さと通気性から、壊死しはじめたのです。かかりつけの病院で誤った処置だと説明を受けた時点で、手遅れでした。
すでに自分が歩いても一緒についてこれないクリちゃん。
クリちゃんもなんとか、自分に追いつこうとする姿は、今でも鮮明に思い出します。
動物的感覚のあの一生懸命さ。
クリちゃんの衰弱は日に増し、最期は春間近な今頃、
保温器にくるまりいつもの、でも弱々しい「グェ」を発して亡くなった。
時々実家に帰ると、クリちゃんが居そうな感じになる。
会いたいです。
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