臍帯血バンク

自宅の電話が鳴った。ルル。ルルル-ン。
取ろうか・・取るまいか・・迷った。
私は電話が基本的に嫌いだ。押し売りに弱いからだ。
今度は携帯が鳴った。
「もし、もし。白血球が正常の半分しかないのは異常なの?」
という夫の声にドキッとした。
とっさに「誰の白血球?」と、問い返しながら胸の鼓動は早くなるばかり。
「会社の女子社員だよ」と言う言葉に少し胸を撫で下ろした。
女子社員の白血球は1700。健常者の数値は約4000~8000前後である。(単位省略)
「それは緊急事態だよっ!1000を切れば、感染症を起こして命の危険を伴うから
再検査させないと・・。」私は焦りながら忠告した。
「実は本人が、朝一番に病院に行かせて下さい。と、青ざめた顔で言って来たから
今、理由を聞いたところだったんだよ。すぐ行かせるよ。」・・電話が切れた。
2~3秒後、落ち着きを取り戻した私は、夫に電話をかけ直した。
「念の為に、他の生化学、血清、血液検査のデータを読みあげてみて!」
電話越しに女子社員が夫に「他は全部異常は無いです。」と言うのが聞こえた。
取りあえず夫にデーターを読みあげさせた。血清、生化学は確かに異常はなかった。
しかし、血液検査は違った。
赤血球・血色素・ヘマトクリットの3項目は正常。ところが血小板のデーターが
記載されていなかったのだ。
これは、明らかに変である。
赤血球・血色素・ヘマトクリット・血小板は自動分析機によるセット検査項目で有る。
故に血小板の結果が記載されていないのは、おかしい。
何故、記載されていないのか?
採血に時間がかかり過ぎて血液が注射器の中で部分凝集した可能性が示唆される。
故に、この検体は検査不能で扱うべきものだった筈である。ところが、その検査
センターの技師は何らかの手違いか見落としにより、明らかに出してはならない
データーを受診者に出してしまったのだ。単純な人為的ミスである。
電話が来てから1時間後「近くのクリニックで再検したら白血球4500、血小板正常で
本人は安心して仕事に復帰したよ。有難う!」と夫より安堵の電話が入った。
突出した異常値が出た場合は、他の検査項目に異常が無いかどうか確認する必要が有る。
体に起きている異変には連動性があり、一項目だけが突出した異常値を示すという様な、
ケースは少ない。
それにしても人騒がせな電話だった!
私が「白血球が少ない」と聞き、飛び上ったのには理由が有る。
それは血液の癌である白血病をとっさに思い描いたからだ。
今は骨髄移植という手段で完治する可能性は有るが・・。
骨髄移植と言えば連想するのは、臍帯血である。
臍帯血(さいたいけつ)とは、へその緒に流れている血液の事である。
数十年前は臍帯血は、破棄されていたが、最近は出産時の臍帯血を臍帯血バンクに保存
する母親達が増えてきている。
増えている理由は、臍帯血が血液の病気に貢献するかだ。
臍帯血には血液のもとである造血幹細胞が多く含まれており、血液の癌など難治性の病を
発病した場合、凍結保存して有った臍帯血を移植して、異常な血液細胞と正常な血液細胞
を置き換える事ができる。
臍帯血移植は従来の骨髄移植に比らべ以下のメリットがあり、需要が高まっている。
  *へその緒から採取できるので、提供者の身体に負担がない。
  *骨髄移植に比べ、白血球の型が完全に一致しなくても移植が可能。
  *造血幹細胞が若く、増殖能力に優れている。  
  *保存血の為、患者に合う血液が短期間で見つかりやすい。
これから出産する可能性のある人は臍帯血バンクに臍帯血を保存するか否か?
考えてみるのも意義深い事のではないだかろうかと私は考えている。
   
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