肝心なこと

 先月の末に近所の酒屋さんが閉店しました。
私が子どもの頃から、かれこれ半世紀以上も
商売をしていたお店です。この前通りかかったら、
閉められた店の戸に「この度諸事情により
閉店することになりました。長い間のご愛顧
ありがとうございました」と書かれた貼り紙が
してありました。突然の、ひっそりとした
閉店でした。
 子どもの頃には、お酒は勿論、お醤油でも
お味噌でもこの店から買っていました。
確か計り売りだったと思います。お醤油が
大きな樽から一升瓶に流し込まれるのを
面白く見ていた記憶があります。
 いつの頃からかスーパーができて、便利な
ペットボトル入りの醤油やポリ袋入りの味噌が
主流となりましたが、それでもビールなどの
酒類はこの店から配達してもらっていました。
そのうちクリーニングの取次ぎもやるようになって、
結構おつき合いは続きました。
 しかし世の変遷留まるところを知らず、
安売り店があちこちにできたと思ったら、
今や酒はスーパーでもコンビニでも買えるように
なり、加えてネットの発達が、何でもどこでも
たちどころに手に入る便利さを提供し、今では
その日のうちに食料品まで配達してくれるという
スーパーもあるといいます。
 まあ、目先のきいた店主なら早めにコンビニに
乗り換えるとか、業態を変えるとか、いろいろ
やり方はあったでしょう。でも「諸事情」でそれは
やらなかった。時代の波に乗れなかったのか、
あえて乗らなかったのか、もしかしたらこれから
乗ろうとしているのか、そこの判然としない全てが、
「諸事情」という一言に置き換えられています。
 「肝心なことはあからさまに言わない」という
文化が日本にはあるように思います。今流行りの
「私はこうして功成り名を遂げた」系の本でも、
その中に出てくる苦労話や努力談には、どうも
肝心なところがスポッと抜けている気がします。
先日会員のIさんも同じ感想を漏らしていました。
 何やかやと仔細に語ったのでは、「私ができたの
だからあなたもできる!」と歯切れ良くは言えない
でしょうからね。特に「肝心なこと」というのは、
余り人には語りたくないことだったりしますし。
 
 件の酒屋さんも、何ヶ月か先には瀟洒なマンション
か何かに変身して、私をアッと驚かせるかもしれません。
もしそうなったら、それに至るまでの「諸事情」を
是非知りたいものですが、それが仔細に分かることは
まずないでしょう。
 さて突然ながら、ここで私も貼り紙ならぬ
「貼り文」をしておきます。
 「かなりんは諸事情のため、このブログを
担当日の2日前に書いています。」
 いったい何のこっちゃと思われるでしょうが、
この「諸事情」というのは、やはり私にとっては
「肝心なこと」なので、ここには書かないでおきます。
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